「――失礼します」
ガラリ。
日番谷は、とある部屋の扉を開けた。
「……っ……!」
途端に感じるのは、強大な霊圧。
一瞬ひるみそうになるが、すぐに立ち直り日番谷は室内へと足を踏み入れた。
「よう来たの、日番谷冬獅郎」
すると、部屋の主である老人が声を発した。
その声と外見からは先ほどの霊圧の持ち主とは到底思えない。
だが日番谷は知っている――この老人がとてつもない力を持った、護廷十三隊を束ねる総隊長であるということを。
(とんでもねえ爺だよな……実際こうして近くで見てみるとよく分かるぜ)
本来ならば日番谷はここ、総隊長の執務室には到底入れる身分ではなかった。
そもそも何故自分がこんなところにいるのか、それすらも日番谷には分からない。
だが、夜明けと共に十番隊の執務室へと出勤した日番谷の元へ、急ぎここへ来るようにと伝令が来たのだった。
「さて早速だが本題に入ろう。――日番谷よ」
「はい」
「おぬしを十番隊隊長に任命する」
「………………は?」
誰が、何だって?
日番谷は一瞬、自分の耳がおかしくなったのかと思った。
なのでとりあえず無礼を承知でもう一度繰り返して言ってもらうことにした。それに対し総隊長は特に腹を立てた様子も無く、
「なんじゃ聞いとらんかったのか。仕方ないのう、もう一度言うぞ。日番谷冬獅郎、おぬしを十番隊隊長に任命する」
今度ははっきり聞き取れた。やはり先ほど聞き取ったのは間違いなかったらしい。
要するにだ、日番谷冬獅郎を十番隊隊長にするということらしい。日番谷冬獅郎ってのは自分だ。つまりはだから………
「…………え?」
「おぬし、耳が悪いのか? それとも聞かぬふりをしとるのか?」
「あ、いや、そ、そうではなくて。いや、だから」
日番谷の要領を得ない様子にさすがの総隊長もイラつき始めたらしい。日番谷はあわてて質問をひねり出す。
「……えと、何かの間違いでは」
自分が十番隊の隊長になど、なれるはずがない。確かに先の戦闘にて、前隊長は死亡したから、今の十番隊には隊長はいない。だが、しかし。
「間違ってなどおらん。日番谷冬獅郎という名を持つ者なぞ、この十三隊にはおぬししかおらんじゃろうが」
「はあ」
だからといって、何で俺なんだよ、と思わず日番谷が呟きそうになった、その時。
「おぬし以外に適格者がおらんからじゃ」
「……」
あまりにはっきりと言い切った総隊長に、日番谷はもはや何も言えなくなってしまった。
だが少し考えた後、ある事実を思いだす。
「あの、副隊長はどうされたのですか」
「それはつまり、『元』おぬしの上司のことかの」
「……はい」
日番谷はいやな予感がした。副隊長が『元』上司だということは……。
「その者はつい先日、辞表を出して、受理されたわい。つまりはもう、死神ではない」
……やっぱりか。日番谷は思わず心の中で毒づいた。あれだけ前隊長に心酔していたのだ、その彼が死んでしまった以上、副隊長は死神を辞めてしまってもおかしくはない、というのはどこかで考えていたのに。
だがそれにしても、自分以外に適格者がいないというのは、かなり強引ではないだろうか。
例え『元』副隊長が辞めたとしても、他の隊の副隊長がいる。そもそも第一、一番の問題点は。
「俺、あ、いや私は、いまだ四席の身、なのですが」
そう、それが一番の問題。日番谷は副隊長どころかその補佐である三席ですらなかったのだ。大体他の隊にも副隊長や三席はいるはず。彼らを差し置いて隊長になる理由がどこにあるというのか。
「そんなことは分かっておるわい。じゃがな日番谷よ、十三隊の隊長はほとんどの者が卍解を会得しておる、というのは知っておろう」
「それは、もちろん」
知っている。というより、護廷十三隊に所属している死神たるものとして、知らない方がおかしい。
そして卍解を会得するのがどれほど困難なことか、もだ。ちなみに日番谷はつい先日、十番隊が半ば休暇状態だった時に、具現化には成功した。だがいまだ屈服までにはいたっていなかった。
「しかしのう、今の副隊長にはまだ卍解を会得できそうなものがおらんのじゃよ。もちろん三席もじゃ」
嘆かわしいことじゃ、と総隊長はぼやく。
「……はあ、なるほど」
そこまで言われて、やっと日番谷は自分が隊長に任命された理由が飲み込めた。
つまりは全く可能性の無い者より、少なくとも近いうちに高い確率で卍解にたどり着ける者の方がいいということだ。
――――だがそれならば。
(もし俺が卍解を会得出来なければどうなる――?)
別にそれほど隊長になりたいとも思ってはいなかったが、それでなれないというのも悔しい気もする。
そんな日番谷の考えを読み取ったのか総隊長は、
「日番谷よ。おぬしに一週間の休暇を与える。その間に卍解を会得できればよし、もしできなくともかまわん。そのまま隊長に就任するのじゃ、よいな」
と命を下したのだった――。
はわわわ……べ、別人28号。日番谷君に敬語なんて使わせるもんじゃないです(汗)
ていうか日番谷君なら総隊長相手だってフツーに『山ジイ』とか言いそうなんですど、でも今は四席だし、いくらなんでも…、というわけで敬語にしたら、見てのとおり(涙)
ホント、日番谷くんは難しいです……。