朝。とはいってもまだ太陽が昇るか昇らないかの、頃。
日番谷冬獅郎は目を覚ました。
すぐさま体を起こし、軽く伸びをする。
ふと窓の外に目を向ければ当然のごとくまだ薄暗い。
それを確かめた日番谷はふう、とため息をついた。
(―――またか)
最近、何故か目覚めが異常に早かった。
元々それほどいいとはいえない(むしろ悪い方だ)日番谷にとって、これほど早い時間に、しかも続けて目覚めるとは異常といってもよかった。
原因は分かっている。
――――夢、だ。
このところ毎日見る、夢。
むせかえるような血のにおいと、おびただしいほどの死神たちの抜け殻。
1ヶ月前の、あの戦いの、夢。
――1ヶ月前。とある虚との戦いにおいて、日番谷の所属する十番隊は壊滅的な打撃を受けた。
上位席官のうち、実に半数以上が死亡、あるいは重傷。
かくいう日番谷自身もかなりの傷を負い、しばらくはまともに動けなかったほどだ。
しかもそれだけの犠牲を出しながら、結局虚は倒せなかった。
最後は隊長が自らの命を投げ打って、生き残った全員を逃がしたらしい。
らしい、というのは日番谷がその瞬間を見ていないからだ。
出血と傷の痛みのために情けなくも意識を失ってしまい、目覚めたのは全てが終わったあとの救護室。
そこで、同じく辛くも生き延びた副隊長からことの顛末を聞かされたのだ。
隊長を個人としても尊敬いや、心酔していた副隊長は涙ながらにその最期について語っていたが、そのときの日番谷の心にあったのは全く別の人物の、顔。
日番谷の一席上――第三席の女のことだった。
彼女もまた、あの戦いで命を落とした一人だ。
日番谷より遥かに年上で、遥かに背が高かった彼女は、いつも日番谷をからかい、それでも時には褒めたりもし、まるで幼い子どもを扱っているように接していた。
口癖は決まって、『死神になれ』。その前後にいろんな言葉――やれ散々からかったあとで、怒り出した日番谷に『そんなんじゃ一人前の死神になれないわよ』とか、自分の尊敬する死神を前に『あんな立派な死神になりなさい』とか――がついたりもしたが、とにかくいつもそれだった。
霊術院をかつてないほどの成績と飛び級で卒業し、しかも類を見ないほどのスピード出世で四席まで上り詰めた者に対し、それはないだろと何度も言ったのだが、いくら言っても聞かないので結局日番谷が折れた。
そうしたらさらに調子に乗って、何度も言われ続けた。
最期の時までも。
そしてさらに。日番谷に何か言い残した。
だがそれが思い出せない。
いや、聞こえなかった、というのが正しい。
だからなのか。自分の中に強く残っているようで、あの戦いの日から、幾度も幾度も夢に見る。
夢で繰り返し告げられても、それは決して自分の耳には入らず――そして目覚める。その繰り返し。
そんなこんなで毎日のように夜明けに目覚めてしまうのだった。
とはいえ特にうなされるとか、寝苦しいとかそういった類の、いわゆる悪夢と呼ばれるものではないので、日番谷はあまり気にしなかった。
ただなんとなく――本当になんとなく、目覚めたときに後味の悪い気分になるだけだ。
だから別になんともない。そう、思っていた。
そうして1ヶ月後の今日。
ようやく十番隊の人事が再編成される。
あまりにも失った人数が多かったために、いろいろ調整が必要だったらしく、日番谷たちは現状維持のまま待機――つまりは『休暇』命令が出されていたのだ。
だがこれでやっと退屈な日々から解放される。任務に忙殺される日々が、また続く。
(そうすればきっとこの夢も忘れる。忘れられる)
そう、日番谷は思っていた。
この時までは。
序章の『夢』の詳細というか、なんというか…。ちなみに三席さんの名前はあえて出しません。というより考えてない…(汗)
なのでテキトーに補完してください。別になくても特に問題ないと思われますが。