ミリアリア・ハウは悩んでいた。というより、心配していた。
一つはついこの間まで敵で、今では一応味方になった、ディアッカ・エルスマンのこと。
そしてもう一つはサイ・アーガイルのことだった。
アスラン・ザラ―ミリアリアにとってその名を出すのが少しためらわれる人だ―が、プラントに戻る、と聞いたときはディアッカはどうするのだろうと少し不安に思った。
だがモニター越しだったが彼本人の口から、『プラントに戻らない』と聞いたときに思わず戻ったほうがいいんじゃないの、
と言ってしまいそのことで少し傷つけたかもしれないと思ったら、
すぐさま『心配してくれんの?』などと嬉しそうに返されてしまったので、呆れてそれ以上何も言えなくなってしまった。
どうもディアッカはミリアリアを振り回して楽しんでる節があるようで。
だから彼の向けてくる気持ちに対して少し戸惑ってはいる。そもそも本気で言っているのかもまだわからない。
ただ、ディアッカがこの艦の他のクルーたちに受け入れてもらえるか、それだけは心配だった。
まあ彼のことだからきっとうまくやるんだろうな、とは思ったが。
それよりも心配なのはサイの方だった。
何故かすごく落ち込んでいるというか、悔しそうというか、時々心ここにあらず、という表情をみせるのだ。
それを最初に見たのはオーブでキラたちの様子を見たときからか。
ミリアリアがあの二人の様子を…キラの嬉しそうな表情を、トールのこともあって少し複雑な顔で見ていた横で、同じように複雑な表情で見ていたサイ。
あの時はサイも自分と同じ気持ちなのかと思っていたのだが、違っていたのかもしれない。
わからない。サイは、ミリアリアには相談していないから。
(カズイや…トールがいれば、違ったのかな…)
そんなことを思いながら、ミリアリアはふう、とため息をひとつついた。すると。
「…あら。疲れてる?」
先ほどからミリアリアが思いつめている様子なのを気にしていたのだろう、マリュー・ラミアス艦長が少し心配そうにそう声をかけてきた。
「え。あ、いえ、大丈夫です、艦長」
「そう? …でもどうせ、もうすぐ交代時間だから。先に休んできてもいいわよ」
「でも…」
一応、規則だし。そう、ミリアリアが言おうとすると、
「今は戦闘中じゃないし、私たちはもう軍人じゃないの。だから、規則とかあんまり気にしなくていいから」
艦長の方から先に言われてしまった。こう言われてはもはや断る理由がなくなってしまう。
「…わかりました。じゃあ、お言葉に甘えて」
「しっかり休んで。次に戻ってきたとき、そんな疲れた顔してたら許さないわよ」
ニッコリ微笑んでそう言った艦長に対し、ミリアリアもまた、笑顔ではい、と返事をしてブリッジを出た。
とりあえず、サイを探そう、と思いながら。
そうしてしばらく歩いてると。
「ええっ、それってホント?」
聞き覚えのある声が聞こえてきた。
これは確かディアッカの声。
(何かすごく楽しそうなんだけど…誰と話しているの?)
「ホントだって。あの時は驚いたな」
(え…これって…)
「…サイ?!」
「え? …あ、ミリィ」
「ミリィ、じゃないわよ、アナタ一体何で…」
何でコイツと一緒にいるの、と言いかけて気がついた。
「どうしたんだよミリィ。俺に何か用か?」
そう言ってミリアリアの顔を見るサイは、どこかすっきりとした表情。さっきまでとは全然違う。
「サイ…?」
「…おいおい、さっきからサイ、サイって。俺もいるんだけど…?!」
「お前はどうでもいいってことだろ?」
「え〜?! それって何かヒドクない?」
そう言ってサイを恨みがましく見るディアッカ。それを見てサイは冗談だって、と笑って返す。
そしてディアッカもまた笑っていた。
「…ねえ…なんか二人とも…ずいぶん仲良くなってない…?」
ミリアリアが知る限り、二人はお互いいい印象は持っていなかったはず。
それが何故。いつの間に、こんなに仲良くなったのか。
「何でって言われても…なあ、ディアッカ」
「まあね。いろいろ話した結果ってヤツ?」
二人はお互いを見合わせて苦笑する。
それを見て、ミリアリアは自分が二人に対して悩んでいたことは、もう大丈夫なんだと理解した。
(なんていうか…所詮男は男同士ってやつなのかしら)
それを思うと少し悔しかったが、顔には出さずに、
「…そっか。で。今は何話してたの?」
ずいぶん楽しそうだったけど。そう、聞いてみた。
「聞きたい?」
それに対してディアッカはいつものからかうような表情で、そう尋ねてきた。
「…別に。言いたくないんならいいわよ」
「そんなんじゃないって。実はさ…」
ミリィの昔の話を聞いていたんだ、と楽しそうに言うディアッカ。
その向こうでサイが何故か可笑しそうに笑っている。
(……え?え? どんな話をしたのよ、サイ!)
ミリアリアはどんどん自分の顔が赤くなっているのを感じ…そして次の瞬間。
「…バカァ!」
と、思わずディアッカを突き飛ばして逃げてしまった。
その後しばらく、なんだかワケのわからないままミリアリアに謝っているディアッカの姿がよく見られたという…。