Decision
一体なんだ、これは。
いつもの様に仕事を終え帰宅したサイ・アーガイルは、メールを見るなりそう思った。

『天使は翼を携え、混迷の大地へと再び翔び立つ。想いを同じくする者と共に、獅子の子を救い出さん』

一見暗号の様なこの文面。だがしかし内容が理解できなかったわけではない。
差出人も含めて、いずれこのような話が出てくるだろう、というのはサイにも多少なりとも予想がついていたからだ。

オーブの代表と、その補佐であるセイラン家のユウナの結婚報道が入ってから数日。
サイの職場も連日その話でもちきりだった。
まあ二人は幼い頃からの婚約者同士だという話だったので遅かれ早かれ、こうなるだろうとは誰しもが思ってはいたらしい。
ただ時期が時期だ。オーブは今、政情的にかなり不安定なのだから。
大西洋連邦との同盟。オーブの理念に反するともいえるそれを、中心になって推し進めている(らしい)セイラン家の嫡男と、代表が結婚するということは、すなわち同盟が決定的になったことを意味する。
無論、表には出てこない『彼』のことも含めてそれなりに代表の内情を知っているサイにしてみれば、この結婚も、そして同盟も彼女の意に反するものだということはよくわかってはいた。
おそらく苦渋の選択であったであろう。いやもしかしたら、もはや選択の余地すらなくなってしまっていたのかもしれない。
だからこそ、何とかして代表を今の状況から救い出してやりたい、という『彼』らの気持ちは理解できた。
  それは確かに理解できた、のだが。

(………………)
サイは訝しげにもう一度メールを読み返し、そしてため息をついた。
(やっぱり、間違いないよな)
後半は問題ない。問題なのは、前半部分。
『天使』と『翼』。間違いなくそう書いてある。
(そういえば前に艦長から聞いたことはあった気がするが)
まさか本当に隠してあったとは思ってもみなかった。
それ以上に『彼』が再び『翼』を手に取ったことに驚いた。
あの戦争でひどく傷つき、やっとここ最近以前のような笑顔を見せるようになったというのに。
傷ついた『彼』が  キラ・ヤマトが再び立ち上がらなければならないほど、世界は、オーブの行く末は危ういものだというのか。
(……いや、違うな)
それだけではないだろう、おそらく。
確かにそれも一因に違いない。だがきっともっと他に、キラが再び『翼』を手にすると決意した何かがあったに違いない。
ならば、自分も再びあの艦に乗り込むべきか。サイは一瞬そう考えた。
だが、しかし。
(  いや、だめだ)
3年前とは違う。自分はもはや軍人ではない。
役に立たないことはないと思う。行けばきっとキラも、そして艦長やかつて共に戦った仲間たちも迎えてくれるだろうとも思う。
けれど、それよりも、もっと。
今の自分にしかできないことが、きっとあるはずだ。

そこまで考えて、サイはふとデスクの横に目をやった。
そこにあるのは2枚の写真。
一枚は、かつてのヘリオポリスで撮った物。キラとミリアリア、カズイ、そして今は亡きトールが写っている。
そしてもう一枚には。サイと、ミリアリアと、もう一人。
サイにとっては親友、いや悪友というべきか、そんな人物が写っていた。
(そういや、これを撮った時って…………)
写真を撮った時の状況を思い出し、サイは思わず苦笑する。
そのまましばらく見つめていたが、やがておもむろに立ち上がり、かけてあった上着を手に取った。
ばさり、と服が翻る音がする。その音が鳴り止むと同時に、サイは扉を開けた。

とりあえず、連絡を取ろう。
全てはそれからだ。
そう決意したサイの目は、かつての、『天使』と呼ばれていた艦に乗り込んでいたときのままだった  

種運命24話を見て思いついた話です。ミリィがAAへの連絡方法を知っていたなら、サイ君にもきっと!……というささやか(?)な願望をこめて。
メールについてはツッコミ禁止(笑)。あれ以上の文句を考えつかなかった……もうちょっと暗号文っぽくしたかったんですけど。『天使』とか『翼』とか『獅子の子』って……バレバレじゃんねえ(苦笑)

このあとサイ君はキラ君に会いに行きます。そうしてAAへの連絡方法を聞きます。
そうしてそれはほどなくミリィへと伝えられて、24話へとつながるのです。
……というのが妄想の過程にあったりするのですが、はたして真相は……ミリアリアさんもキラ君もそんなことはひとっことも言いませんでしたけど(涙)

写真のディアッカさんがどんな表情をしていたかは、こちらを参照のこと。