いつも一緒に

「写真撮ろうぜ、写真!」
始まりはディアッカのこんな一言。
いつもながら突拍子も無いその一言に、
「イヤ」
ミリアリアはあっさりと否定の言葉を返す。
けれどディアッカはあきらめない。
「なあ、いいだろ、ミリィ〜」
そう言いながら、すがりつくように腕を絡ませ、顔を近づけようとする。
「ちょっとやめてよ、ディアッカ!」
ミリィも必死になって離そうとするが、当然のことながら男で、しかもコーディネイターのディアッカの方が強い。
さらに顔を近づける。あと至近距離で二人の唇が近づく、そんな距離。
「ディアッカ!いい加減にして!」
「ミリィがいいっていうならやめるよ」
「何の話よ!」
「だから、写真」
「写真って…………何でいきなり」
ミリアリアがそう言うと、ディアッカはスッと顔を離した。そして、先ほどまでとは打って変わって妙に真面目な顔で、
「…………いつも一緒にいたいから」
「は?」
「ミリィと一緒にいたいんだよ、俺は」
言ってディアッカは照れたように頭をぽりぽりと掻き、
「……ほら、俺って、ていうかパイロットって、当たり前だけどコックピットの中じゃいつも一人じゃん」
「………………」
「俺、今まではそんなこと気になんかしてなかったっていうか、いやむしろ、ザフトのパイロットの中にも、恋人とか奥さんとかの写真飾ってるやつとかいたんだけど、そいつらのことバカにしてたっていうか、いつ死ぬかもしれないから持ってるんだと思ってさ、戦う前から死ぬこと考えてるんじゃねえよ、とか思ってたりしたわけだけど」
「ディアッカ」
早い口調でまくしたてるディアッカに、ミリアリアは少し不安を感じ、言葉をさえぎるように彼の名前を呼んだ。
ミリアリアの心の中に、かつての  いや、今も忘れることなどできないトール・ケーニヒの笑顔が浮かぶ。
ディアッカもまた、トールのように。そんな考えが頭を離れない。
そんなミリアリアにディアッカも気づいたのだろう、あわてて手を振りながら、
「あ、いや、違うって。俺は別にいつ堕ちてもいいように、なんて考えてないから。むしろ逆」
「……逆?」
「ああ。俺はミリィを残して死んだりなんかしない。それだけは誓う。ミリィを悲しませたりはしないさ」
そこまで言ってディアッカは、少し顔を曇らせて、けどさ、と続けた。
「けどさ、やっぱ時々不安になったりもするワケ。でもそんな時にさ」
「うん」
「目の前にミリィの笑顔があったらさ頑張れるかな、と思ったんだよ」
「…………ディアッカ」
ディアッカの思いもよらない言葉に、ミリアリアは顔が火照ってくるのを感じ、思わずうつむいてしまった。
「ミリィ……やっぱ、嫌か……?」
ミリアリアがうつむいた理由を勘違いしたディアッカは、表情を曇らせつつ、しかしそれを悟られないように必死で押し隠しているような複雑な表情で、
「確かにいきなりだったからな、嫌なら無理にとは」
「ううん。嬉しい」
「え?」
今、何て。ディアッカの言葉を途中でさえぎったミリアリアの言葉に、思わずディアッカは聞き返した。
「嬉しいって言ったのよ。そんな風に思ってくれて、すごく嬉しいの」
「ミリィ」
「けど、あんまりはっきり言われたから、すごく照れちゃって、それで…………」
言いながらミリアリアはさらに頬を紅くしてうつむいた。
「じ、じゃあ写真は」
「もちろん、いいわ。でも出来は保障しないわよ。私、あまり写真写りいいほうじゃないし」
「全然いいって!俺はどんなのでも気にしないから!」
ミリィが載っている写真なら、どんなでも。自分にとって大切なのは、ミリィが傍にいるという事実だから、ディアッカはそう続ける。
ところが、そこまで言ったところでミリアリアの表情が一変した。
「ちょっと待って」
「え?」
「それって、どういう意味…………?」
「い、意味って……」
「そりゃ、私はラクスさんみたいに歌はうまくないし、カガリさんみたいにお姫様じゃないし、艦長みたいに大人じゃないし…………」
「ミ、ミリィ…………?!」
先ほどとは打って変わって、怒りを含んだその声に、ディアッカは身の危険を感じ、恐る恐るミリアリアの顔を見た、と同時に。
バチーン!と小気味いい音が響く。
そして、さらに。
「どうせ、私は可愛くないわよっ!」
そういい残し、ミリアリアはディアッカに背を向けて駆け出して行く。
「……………………え?」
後に残ったディアッカは一瞬何が起こったか分からなかった。
今、何があった?と考え、そして左の頬がヒリヒリと痛むことに気が付く。
ということは、だ。
「平手打ち、された……ミリィに……」
何で?と痛む頬を押さえながらディアッカは首をかしげるのだった。



「あれ?サイ、何してるの?」
「キラ。今着いたのか?」
「うん、そう。あれ?これって、写真?」
「ああ、さっきアークエンジェルのみんなで撮ったんだ」
「へえ。もうちょっと待っててくれたら一緒に撮れたのに」
「ちょっと急だったからな、今度機会が会ったら誘うよ」
「よろしく。……って、これディアッカだよね?なんで顔が赤いのさ?」
「………………さあな。どうせまた、ドジやったんだろ」
「……サイ、何か知ってるだろ」
「…………さあな。けど、こういう写真もあってもいいだろ?」
「………………サイ、ひょっとして楽しんでる?」
「……さあ、どうだろうな?」
(…………………………はあ…………同情するよ、ディアッカ)





あははははは(汗)。前半は珍しくまともなディアミリっぽいですが、後半はやはりいつものパターンです(爆)。
ディアッカさんがこんなに女の子の気持ちにニブイわけはない気もしますが、そこはやはり初めて本気で惚れた女の子(多分)なので。恋は盲目、というやつです(意味が違う)。
本編には書いてませんが、こうなった後に何故すぐに写真が取れた理由は、サイ君がミリィに(何も知らない顔で)「みんなで写真撮影しよう」と持ちかけたからです。サイ君が言うからと、ミリィは仕方なしに承諾します。そうしてディアッカさんは、結局顔の腫れが取れないまま、写真撮影にのぞむこととなったわけです。
ちなみにこのときエターナルとクサナギはそれぞれ別のルートで航行中でした。だから急な話でキラたちは一緒に撮れなかったわけです。
……ということにしておいてください(爆)。そのあたりのことまで盛り込むといくら書いても終りそうに無いので。