Give a reason
<2>

しばらくの無言の後。
「…で、何」
先に口を開いたのは彼女の方。だからまた言いそびれてしまった。
「何って…いや、その」
「言っておくけど、元気出せとか、気にするな、なんて言わないわよね」
「…いや、だから…」

彼女に先に言われては、もう何も言えない。
俺はもごもごと口を動かすしかできなかった。
情けない。俺は、こんなだったか?
そしてそんな俺の様子に首をかしげた彼女は、ふと思いついたように、
「…そういえば、アンタなんで戻ってきたのよ」
そんなことを言い出した。

何で今そんなことを聞くんだっつーの。俺はそう思った。さらに、
「せっかく自由の身になったのに」
心底不思議そうな顔をして彼女が言うので、俺は思わず、
「あれは自由の身とは言わないだろ。もうすぐ戦闘になるってところに放りだしといて」
と、またもや余計な一言(…とすぐに後悔する)を言ってしまった。
案の定彼女は表情を一変させ、
「し、仕方ないでしょっ! それどころじゃなかったんだから!」

ああ、またしてもやってしまった。どうも俺はこの女を怒らせるしかできないらしい。
しかしまあ、それもそうだな。
あの時はどう考えたって余裕がなかった。
あの状況で俺が忘れさられずに、かつ解放してもらえたのは、おそらく目の前にいるこの女のおかげなのだろう。
そう思って彼女を見ると、彼女もまた俺を見ていた。

自分の彼氏を殺した敵軍の俺を、まっすぐ見つめているこの瞳。
最初は憎しみのこもった瞳だった。
そうだ。それで俺はナチュラルが…戦っている相手が生身の人間で、俺たちと同じ様に悲しみや怒りを持っているんだと…理解したんだ。
大事なやつを殺されれば、誰だって悲しむ。そして殺したやつを―その仲間すらも憎んだって仕方ない。
だから、俺はコイツに殺されかけた。
…だが、その後別の女が俺を撃ち殺そうとした時に、俺を助けたのもコイツだった。

コーディネイターが、俺たちが自分の彼氏を殺したわけじゃない、この戦争が殺したんだと。
…だから、俺を殺しても仕方がないんだと。
俺を助けた理由をはっきり聞いたわけじゃないが、おそらくはそういうことだったんだろう。

そして、今度は自分の国が襲われた。しかも、つい先日まで自分たちがいた、その軍にだ。
コイツも、俺を撃とうとした女も、そしてそばにいた男も、おそらく正規の…ちゃんと訓練を受けた軍人じゃないのはすぐにわかった。
だから、普通なら逃げ出したっておかしくはないはずだった。
なのに、彼女は言った。
『あたしはAAのCIC担当。それに、オーブはあたしの国なんだから…』
だから、戦うと。
やるべきこと。やれること。守るべきもの。守りたいもの。
それがあるから、戦うのだと。

戦いが始まり、徐々に劣勢になっていくオーブの軍。
そして…足つき。俺たちが何度も戦った、戦艦。
その戦うさまを見ている間に、俺の中には何度もこの女の言葉がよみがえってきた。

俺を殺そうとして、でも殺せなくて、あげくに俺を助けた女。
泣いたり怯えたりしていたくせに、いざとなったら強気な態度。
はっきり言って、妙な女だと思った。
今まで会った女の中で、一番弱そうで…そして強かった。

そんなことを考えていたら、体が勝手にバスターのあった場所に行っちまったんだ。
特に何かを考えて行動したわけじゃない。
その後のことだって、無我夢中で戦ったようなもんだ。
一度戦闘に出てしまえば、逃げることは許されないのだから。
だけど、今考えると。

「ねえ、ちょっと? どうかしたの?」
ずっと考え込んでいた俺が気になったのだろう、さっきの怒りはどこへやら、ちょっと心配そうな表情で聞いてきた。
「…お前を死なせたくなかったんだよ」
「……え?」
「…だから、お前を死なせたくなかったんだよ、だから俺は戻ってきたんだ」
そういう、こと。ただ、それだけ。
認めたくはないが、俺はこのナチュラルの女が気になっているらしい。
だから、死なせたくなかった。守りたかった。
守る、なんてこれまで一度だって思ったことのない感情だった。
俺の周りには…、少なくとも今までは、守ってやりたい誰かも、守りたいと思う何かもなかったから。
ましてや、守るために戦うなんてことは一度もない。
でも、それが今の俺の正直な思いだった。

「…な、何言ってるの…」
「言っとくが、別にお前に惚れてるとかじゃないから。ただ妙な女だから、気になっただけだからさ」
とりあえず、こう言っておく。少なくとも、今は。
「…あっそ。じゃ、好きにすれば」
俺の言葉に安心したのか、はたまたちょっと怒っているのか、彼女はあっさりそう言った。
「へいへい。んじゃ、また戦闘が始まったら困るから、俺はヘルメットでも探すかな〜っと」
言って横を通り抜けた俺の耳に、かすかに聞こえてきた、声。

「…気を、つけてね。それから、…ありがと」

その声の主を守るため、俺は戦う
それが俺の、ここにいる理由だから。

   

…ようやく、書き終わりました。後半の方、何かばたばたしてるような気もします(汗)
39話でミリィに対してあんなにオロオロ(オタオタ?)していたディアッカさんが、
次の話ではアスランに対して無茶苦茶強気というか、もうすっかり吹っ切れて、
『俺はミリィを守るために戦うんだ』という気持ちになっていたのが気になったので書いてみました。