Give a reason
<1>

『―僕は君の仲間、友達を殺した。…でも、僕は彼を知らない。殺したかったわけじゃない。』
『君もトールを殺した。…でも、君もトールのことを知らない。殺したかったわけでもないだろう』

アスランと、あのMS―フリーダムというらしい―に乗っていたヤツが話している。
どうやら、あの二人は知り合いらしい。
…そして、二コルを―俺たちの仲間だったヤツを殺したのが、こいつで。
今、俺の目の前にいる女の彼氏、トールとかいうヤツを殺したのが…アスランだって?!

…おいおい、それってまずくないか?
俺は思わず目の前の女―ミリアリアを見た。
この女は、彼氏が死んだ時にたまたまいた敵…つまり俺にナイフを突きつけてきた。
まあそれは俺が馬鹿なことを言っちまったせいでもあるが。
裏を返せばそれだけ彼氏のことが好きだったってことでもある。
だから…今彼氏を殺したやつが目の前にいるって分かったなら、こいつはどうなっちまうんだ?

見ると、ミリアリアは涙をこらえるように震えている。
その心に宿っているのは、憎しみか、それとも死んだ彼氏のことでも思い出しているのか。

やがて、ミリアリアはこらえきれなくなったのか、逃げるようにその場を立ち去ろうとした。
「…っ、お、おいっ!」
俺の制止の言葉に、足を止めて振り返ったミリアリアはその目に涙を浮かべながら、
「…何よ」
いぶかしげな表情で俺を見た。
「…その、あー、トールってヤツを殺したの…あいつ…」

思わず口から出た言葉。何でそんなことを言ってしまったのかはわからない。
ただ、引き止めた以上何かを言わなければと思ったら、勝手に口が動いた、ただそれだけのこと。
あの時と同じ、不用意な言葉。
今度もまた、この女は泣き出すのだろうか。それともまた、憎しみをぶつけるだろうか。
そう思っていた俺の耳に届いたのは、思いもよらない言葉だった。

「だから何?! アンタ、聞いてなかったの、キラの言ってたこと!」
「…えっ、…いや…」
「あの人を殺すと、トールが生き返ってくるの?!」
強い口調に、俺はただ首を振るしかできなかった。
「違うでしょ! だったらそんなこと、言わないで!」
そう言って、彼女は今度こそ、走り去っていく。

「…っ…!」
俺はもう一度、引きとめようとしたが、言葉が出てこない。
一瞬ためらったあと、すぐさま後を追いかけた。

言わなければよかった。今更後悔しても遅い。
いつもの俺ならもっとうまい言葉を言っていたような気がするのに。
今もまた、追いかけてどうしようというのだろうか。
不用意な言葉を謝るべきなのか。

…違う。俺は…。

俺が、言いたかったのは。
気にするな、とは言えないけれど。せめて、元気を出せと言ってやりたくて。

「…っ、待てよ!」
彼女は振り返らない。まあ、当然か。
「待てったら!」
もう一度、声をかける。前を走っていた彼女のスピードがゆるみ、手が触れた。
「…! 離して!」
「いいから、話を聞けよ! …いや、聞いてくれ」

俺の言葉に、彼女は一瞬ためらいの表情をみせ、それから、
「―わかったわよ」
ため息をつきながらうなずくのだった。
  

はじめてのSS。本編抜粋が多かったのでなんか思ったより長くなりそう…。
ちなみにタイトルは林原めぐみさんの歌からお借りしました。
でもあんまり歌とは関係なかったり(汗)。
あの歌は「生きる理由」ですが、この話はディアッカさんの「戦う理由」です。