Ssigh Argyle
サイ・アーガイルはコーヒーを片手に書類を読んでいた。
一枚一枚ページをめくりながら、ふと横目で机の上に乗っている書類の束を見る。机を丁度2分割するかのように置かれたそれらは、右と左の高さがほぼ同じ、いや若干右の方が高かった。
(……やれやれ。これでようやく半分くらいか。全部読み終わるまでにどれくらいかかるのか検討もつかないな)
つい先日こちらに所属するようになってから今日まで、寝る間も惜しんで働いているわりには中々終らない。
とにかく覚えることが多い上に、現在の仕事として処理すべきものまであるのだから仕方ないといえばそうなのだが、いいかげん過労でぶっ倒れてもおかしくはない気がする。
全くこういう時はコーディネイターの頭脳と体力が羨ましくなるよな、などと思いながらコーヒーを飲み干したサイは、ふと思い出したように壁の時計を確認した。時間は13時を少し回ったところだ。
「そろそろいい頃合か」
カップと書類をテーブルに置き、一度大きく伸びをして、それから扉の方へ向かい、歩き出す。
新しくサイの直属の上司となった人物は現在知人と会談中だったが、その後に予定しているものがあるため、時間になったら呼びにくるように言われていたのだった。
「……と、そうだ」
そのまま扉へと向かおうとしたサイはふと思い出して数歩戻り、机に手を伸ばす。そして書類の山の奥にある写真を取ったが、
「これ、持っていた方がいいか……?いや、多分誰かしら持ってくるか」
そう思い直し写真を置いてから、今度こそ扉を開けた。ギイ、という音と共にひやりとした空気が顔に触れた。
徐々に混ざり合っていく空気をさえぎるようにサイは外に出ると、取っ手から手を離す。引力から解き放たれた扉は再びギイと音を立てながら閉まっていき、やがてガタン、と少々重たげな音が鳴った。
(……いつもながら、なんともなあ)
今どき自動ドアではないのも珍しく、初めて訪れた時には驚いたものだった。とはいえ慣れてしまえばどうということもなく、何よりもこの建物の雰囲気には合っているに合っているとサイは思えるようになったのだったが。
(けど、自分がここにいるのは未だに信じられないんだよな)
扉を開け閉めするたびに違和感を覚えている自分自身に苦笑しつつ、オーブ首長国連邦代表付き第三秘書、サイ・アーガイルは政府官邸の長い廊下を歩き出した。
この話は順番に視点が変わりますのでご注意を。しかし、最初がサイ君というあたりが私らしい(笑)。
Cagalli Yula Athha
コン、コン。
オーブ政府官邸、首長室で執務に追われていたカガリは、控えめに叩かれたノックの音に顔を上げた。
事前に約束はしてあったので誰かは分かっている。どうぞ、と答えると今どき珍しいであろう手動の扉がかちゃり、と開かれ、赤毛でツインテールの少女が姿を見せた。
「メイリン。よく来てくれたな」
「本日はお招き有難うございます」
イスから立ち上がって出迎えたカガリに、メイリンがかしこまって挨拶をする。
「堅苦しい挨拶はいい。それに、今日招いたのは私じゃないぞ」
カガリの言葉にメイリンは一瞬不思議そうな顔をしたが、やがて意味を悟ったのか、
「あ、そういえばそうでしたね」
朗らかに笑いながら、言った。カガリもそれを見て笑顔を浮かべたが、ちらりと視線を横に滑らせると途端に険しい顔になっる。
その変化にメイリンが気がついて、少し言い出しにくそうに言った。
「ご要望どおり、連れてきたんですけど……」
大丈夫ですか、と言葉に出さずに目で告げられた。
年下の少女にまで心配をされるほど、自分は危なっかしげに見えるのかとカガリは苦笑したが、多分それだけではないのだろう。
けれど、これは自分がやらなけばならないことだ。誰にも変わってもらえない。だからこそ、はっきりと告げた。
「入ってきていいぞ、シン。シン・アスカ」
無言。無音。何も動きが無い。
まさか帰ったのか、と不安に思ったカガリは隣のメイリンと顔を見合わせた。
メイリンの方も理由が分からないのか不安げだ。もし帰ってしまったのならどうするべきか、と思案したその時。バンッと少し勢いをつけて、扉が開いた。
だがしかし、入ってきたのは名を呼んだ当人ではなく、メイリンと同じ赤い髪をした少女だった。
「あの……」
「ああ、そうか。お前もいたんだったな」
名前を呼ばなかったことをひとまずわびる。忘れていたわけでなかったが、もう一人のことで頭がいっぱいだったので仕方が無い。
「久しぶりだな、ルナマリア。元気そうで何よりだ」
メイリンの姉であるルナマリアはカガリの言葉に少し驚いた顔を見せたが、
「……あ、はい。アスハ代表もお元気そうで」
すぐに我に返って挨拶をする。そのかしこまり方は、どこか妹とよく似ていて、カガリは思わず笑ってしまった。
「代表?」
「あ、いや。すまない。けど、代表なんて呼ばなくていいぞ。カガリ、と呼んでくれて構わない」
「……え?でも、それは」
「何だ、不都合でもあるのか?」
「不都合というか、何と言うか……そうですね、ならカガリ様、と」
「…………まあ、いいか。それより、シンはどうしたんだ。一緒に入ってこなかったのか?」
「ええと、そのですね」
何かやっぱりためらってるみたいで。
カガリの言葉にルナマリアは言いにくそうに、言った。
カガリ視点って初めて書きましたが意外と書きやすい。
Lunamaria Hawke
しばらくお待ちください