いつ終るともしれぬ戦争――実際には1年足らずだったが――が終って、はや数ヶ月。
若きプラント最高評議会議長、ラクス・クラインは退屈だった。
程よく湯気をたてる紅茶をひと口飲み、はあ、とため息を1つつく。
先ほどからずっとこんな感じだ。
もちろん、仕事は山の様にある。
戦争の事後処理、オーブをはじめ各国との会談、果ては慰問ライブ等。
ラクスのスケジュールは分刻みで詰め込まれていた。
近々丸1日休みを取ってくれるらしいが、その日取りすら決まってはいない状況だ。
しかし、それでもそんな毎日の中、部下たちはラクスの体調を気遣ってか、必ず1日一度は休息タイムを設けてくれていた。
とはいってもたったの十数分だが、それでも貴重な時間に代わりはなく。
いつもラクスは大好きな銘柄の紅茶を飲んで、静かに自身の心と身体を労わっていた。
けれど。
今日は、何かが足りない。
否。『何か』は分かっている。
より正確にいうなら、『誰か』だ。
ラクスが紅茶を飲むのを優しく見守り、時には一緒に飲みながら、たわいもない話をしてくれる、人。
(――――キラ)
今はここにいない恋人を思い、ラクスはまた、ため息をついた。
実力と実績と、ほんの少しの圧力をかけて、自身の直属の護衛官に引き入れた彼は現在、オーブ出身者として、また代表首長の身内(とはあくまで内密の話だが)として、戦災にあった街を回っていた。
本当はラクス自身にその依頼はあったのだが、スケジュールの都合と、せっかくなので里帰りをさせてあげたいという思いで、キラにそれを任せたのだ。
だから、彼がいないのはラクス自身のせいであり、それは重々分かってはいるのだけど。
それでも、退屈なのだ。
こればかりはいかんともしがたい。
ふと、時計を見る。
あと数分もすれば、迎えがくるはずだった。
けれどその数分が、たまらなく長く感じる。
(寂しいとか不安だとか思う前に、退屈だと感じてしまうのはどうかとも自分では思うのですけれど)
そんなことを考え、思わず苦笑する。
と、その時。
(…………あら?)
そういえば。
昔もこんなこと、なかっただろうか。
その時も同じようなことを思って……。
…………。
…………。
(――違い、ますわね)
そう思ったのはラクスではない。
退屈だと思ったのは間違いなくラクスで、それを告げたのもラクスだったが、先ほどラクスが思ったことはかつてのラクスが思ったことではない。
ラクスを抱き上げ、優しく微笑みながら言ったその人物。
シーゲル・クライン。
今は亡き、ラクスの父親。
(……お父様……)
ラクスの頭に、父の微笑とともに幼き日の情景がぽつりぽつり、と浮かび上がる。
いつもの通り仕事で忙しい日々を、オカピたちを過ごす自分。
それはとても楽しい時間だったけれど、やがて飽きてしまって、ある日とうとう父に打ち明けた日。
聞いた父はラクスを抱き上げて、苦笑とも微笑ともとれる顔で言ったのだ。
先ほどのラクスと、同じセリフを。
そして。
ひとしきり話したあと、父はラクスをとある部屋に案内した。
それはかつて母が使っていた部屋。
今は母の形見が色々入っているからと、それまでラクスが入ることを禁じられていた部屋だった。
かちゃり、と鍵をあけて、中に入ったラクスと父の目に入ったものは。
昔地球ではやっていた、動画を保存した様々な保存媒体と、それを再生する、機会。
父が教えてくれたところによると、ビデオとレーザーディスク、それにDVDというものだった。
生前母はこれらが凄く好きで、暇さえあれば見ていたらしく、時に父も見せられたものだと、照れくさそうに笑っていたのを思い出す。
ここにあるのは母が特に好きだったものらしく、何度も見かえしたものだから、ラクスがこれらを見れば、少なくとも退屈な日々はなくなるのではないか、ともいい、さらに父も何度か見させられたものだから、お互い感想を言い合うのも楽しいかもしれないとも言ったのだった。
そうして、ラクスは母の部屋のコレクションを見まくった。
特にハマったのはいわゆる魔女っ子とよばれるもので、何度も何度も繰り返しみては、同じポーズを真似したりもしたものだった。
(……懐かしいですわね)
過去の自分を思い出して、思わず微笑む。
メイドに頼んで同じような服を作ってもらったりもしたこともあった気がする。
やがてラクスは請われて歌うことになり、それが忙しくなって、母の部屋に行くこともなくなってしまったのだが……。
(思い出したら、急に見たくなりましたわ)
家に帰ったら、見てみようか。
それともキラが帰ってきてから、一緒に見るべきか。
一人で見るものいいけれど、誰かと見ればもっと楽しいはず。
キラと一緒に服を作るもの楽しいかもしれない。
そんなことを考え、再び微笑んだ、その時。
ラクスの頭の中で、何かがはじけた。
部屋に貼ってあったカレンダーで、日付を確かめる。
――今日は、10月8日。
(これなら間に合いますわね)
休みは10月30日にもらうことにしよう。
もう違う日に決まってしまったかもしれないけれど、そうしたら変えてもらえばいい。
それでスケジュールがきつくなっても、自分は大丈夫。
(まずはキラにメールいたしましょう♪)
きっと、話にのってくれる。
そうして下準備して、皆にメールするのだ。
Xデーまで、あと3週間。
――さあ、準備開始ですわwwwwwww
うわー、もう、何だかなあ。思いっきり暴走です。クライン家って一体(爆)。
えー、とりあえず説明させていただきますと、これは10月7日に行われた着せ隊絵チャットにて捧げたものの、前説じゃない前振りでございます。
皆さんが素晴らしい絵を描いてくださったので、それにつられて勢いで書いたものだったので、もうそれで終わりっ!……のはずたっだんですが。
そこはチャットの罠。あれよあれよと釣られてしまい、連載するはめに……
んで、連載するに当たって、んじゃなんでこうなったのよな話もいれなきゃならんと思って書きました。
予想以上にバカみたいな話になりそうです。
てかそれより何より、ちゃんと終れるように頑張ります(切実)。