朝。電子音とともにルナマリアは目覚めた。
目覚まし時計の数字は午前8時。早すぎもせず、遅すぎもせず、程よい時間。
となれば当然目覚めもすっきり、となるはずなのだが、どうにもこうにもすっきりしない。
理由は分かっている。分かりすぎるくらい分かっている。
というより、今のルナマリアの心の大半を占めているのは、『彼』のこと以外にはないのだから。
「――ああ、もう」
寝ても冷めても彼のことばかり。それも考えていて嬉しいとかときめくとかいうものではない。
むしろその逆。だから眠れないし、すっきりしない。
彼――アスラン・ザラという人物は、女の子の気持ちにはとことんニブイらしかった。
ルナマリアが必死で、でも一応さりげなく告白したのにも気が付かなかったのか、気が付いてもスルーしているのか、とにかくその後なんのリアクションもおこさない、おこしてくれない。
よく言えば、考えて行動してるな、という感じ。人付き合いが苦手とか言っていたからそのせいかもしれない。
悪く言うなら、もうちょっと積極的になってよ、とか。いやむしろここまでしたんだから気が付いてよ、か。
まあその後に議長の声明とかがあったせいで、色々ごたごたしてるってのも理由なのかもしれないけれど。
でもルナマリアにしてみれば、もう少し何かがあってもいいと思ってしまうのだ。
けれどいつまでたっても何もない。このままじゃ告白すらなかったことにされてしまうかもしれない。
それは嫌だ。絶対に嫌だ。
受け入れてもらえなかったというなら、それをはっきり言ってくれれば、まだ諦めもつく。
でも何も言ってくれないと、いつまでも引きずってしまう。
それでは何もならない。前に進めない。
けれどおそらく、この分じゃアスランの方からは何もしてくれないだろう。
ならば、ルナマリアの方からとる行動はただ1つ。
「――よしっ」
気合と共にがばりとベッドから飛び起きたルナマリアは、ささっと少し寝癖のついた髪を直し、傍にかけてあった服に着替えると、善は急げ、とばかりに部屋を飛び出した。
部屋を出て数分もしないうちに、目当ての人物の後姿を発見、早速声をかけた。
「――アスラン!」
「……あ、……や、やあ、ルナマリア」
「おはようございます。突然ですけど今、暇ですか?」
「え。あ、ああ。とりあえずは、まだ指令は出てないようだが」
――そういう意味ではないんだけれど。ルナマリアはそう言いたくなったが何とか押さえて、
「よかった!じゃあもしよかったら、これから街に行きませんか?」
「……え?」
思いも寄らない言葉だったのだろう、一瞬驚いた顔をしたアスランはその後、あーとかえーとかその、とか言ったあげく、
「俺でいいのか?」
とためらいがちに言ってきた。
(………………)
俺でいいか、とはどういう意味なのだろう。
いや単純に考えれば一緒に街に行くのが自分でいいのか、という意味だと思うのだけれど。
何だか妙に含みがある言葉にも聞こえてくるのは気のせいだろうか。
(余計な期待をされる言葉を言わないで欲しいわよね、ホント)
そのくせ全くこちらの気持ちに気が付かないのだから、罪作りもいいところだ。
「ルナマリア?」
いつまでたっても返答がこないので心配になったのだろう、アスランは怪訝そうに尋ねてきた。
その表情は、とてもザフトのトップエリート・特務隊フェイスの人間とは思えないくらい、情けないもので。ルナマリアは少し可笑しくなってしまった。
でも、そんな彼もまた可愛いと思えて、だから。
「…………です」
「え?」
「アスランで、いいんです」
…………ううん、違う。
「アスランが、いいんです。……私は」
しっかりと目を見据えてそう言った――。
ルナマリアの告白(……アスランには通じてませんが)の後の話。
あの後本編ではごたごたがあったので絶対に街に出られるわけないのですが、そうなると話が進まないので無視しました(爆)。
……にしても、アスラン……こんなにニブくていいのでしょうか(笑)。そしてこんなに情けなく……ディアッカさん以上のヘタレだ…………(自分で書いといて言うな)。