――何が起こったのかわからなかった。
目の前が光ったように感じられ、次の瞬間、まるで稲妻のような衝撃が来た。それと同時に、私の腕から流れ出てきた、赤い液体――血液。
撃たれた。撃墜された。どうして、何故。
私は必死で状況を整理しようと、した。でも頭はまるで働かない。
そればかりか、何故だろう、どんどん体の力が入らなくなっていく。
――私、死ぬの?こんな、簡単に?
そんなことを思いながらふと海上の方に目をやれば、そこに見えたのは見慣れた深紅の機体と、翼の生えた白い機体。
深紅の機体――セイバーが、白い機体に腕を落とされ、そのまま海に落下してくのが、見えた――ような、気がした。
駄目だ。もう、目がかすんできた。どうにもならない。
段々と薄れていく意識の中、私は叫んだ――深紅のMSのパイロットの名を。その、つもりだった。でもそれは声にはならず、吐息だけがあたりに漂った。
そうして私は、意識を失った。
何でも分かり合えると思っていたわけじゃない。
何でも分かち合えるとも思っていたわけじゃない。
けれど、幼い頃はいつも一緒にいて、一時は互いの状況に流されて敵同士になってしまったけれど、それでもまた二人はまた共に、同じ道を歩み、同じときを過ごせるはずだった。
けれど常に揺れ動く時の流れは、決して俺たちを平穏と安らぎの中にはおいてはくれなかった。
未だ悲しみと憎しみを残した者たちが剣を取り、愛した者たちの墓標を蒼き星へと堕とせば、歪んだ思想と差別意識を意義あるものとした者たちが、破滅の光を手に取った。
そうして世界は再び、混沌へと向かっていってしまった。
その余波はやがて平和と共存を掲げた国へも及び、その理念をも揺るがせて。
愛した少女が自らの力の無さを悔やんでも、何も出来ない自分が辛かった。
出来る何かを探し、求めたのはかつての自分。だからこそ誘われるままに、導かれるままに、赤を身にまとい、紅に乗り込んだ。
それが何を意味するのかなど、考えもしなかった。
全てが終ればまたあの平穏な日々へと戻れると信じていた。
――目の前で振り下ろされた剣が、俺の機体の腕を切り落とすまで。
何が起こったかすぐには信じられなかった。
けれど衝撃の後、重力に従い徐々に堕ちはじめた機体に、状況を理解した。
もう同じ場所には戻れない。
帰れる場所など、もうどこにも無い。
ならばもうどうでもいい。そう思い、ゆるやかに堕ちていく流れに身を任せようとした。
だが、しかし、その時。
名を呼ぶ声が聴こえた。
それはとてもかすかで、けれど聞き間違えないのない、少女の声。
何故、と思いながら視線をミネルバの艦首に向ければ、そこに見えたのは大破した赤い機体。
「――っ!」
それを見た瞬間、自然に体が動いた。
すぐさまモニターを拡大し、赤い機体へと向ける。ちょうどその時、少女――ルナマリアが救護班に運び出されたところだった。
生きている。まだ、生きている。
ならば、俺もまた。
すでに機体は動かない。けれど、それでも。
自らの名を呼んでくれたあの少女のもとへ、帰りたいと思った。
気のせいかもしれない。ただの思い込みかもしれない。
それでもただ今は、帰りたい。
アスルナ小説第3弾。時間軸としては29話のあたりです。
アスラン視点では初めてです。書きにくいことこの上ない。