かっこいいとか、悪いとか、

そういうのはどうでもよくてね?








恋は人を寛大にする。










 長い時間一緒にいると。
 ああ、きっと今、こういうふうに思ってるんだろうな、とか。
 きっとこういうふうに感じてるんだろうな、とか。
 そういうのが解って来たりする。


 首筋を掻くのは困っているとき。
 髪を掻き揚げるのは苛立ってるとき。
 眉間の皺の本数は怒りのバロメーターで、増えれば増えるほど機嫌が悪い証拠。
 じっと目を閉じ拳を握り締めているのは自分を責めているときで。
 寝転がったまま片手で目を覆うのは辛いとき。
 口端を上げただけの破顔。


 表情から、仕種から、日番谷を知っていく。
 知ることはそのまま幸せに繋がっていく。


 一番新しい知識は、日番谷は雛森にかっこ悪いところを見られたくないんだということ。
 乱菊に話したら、男だもんね、と笑っていた。
 男の意地というやつらしい。
 女の雛森にはいまいちわからない世界。
 それは少し寂しくて、けれどどこか可愛いと思う。
 そんなことを言ったら怒られてしまうだろうか?


 ぱしゃん、と水の跳ねる音がして、雛森の飛んでいた思考が戻ってきた。
 目の前を見ると、水溜りの中に足を踏み入れた日番谷の姿。
 何があったのかはわからないが、日番谷が自ら足を踏み入れたとは考えにくい。
 誰かと肩をぶつけて、不可効力で押しこまれたと考えるのが妥当だろう。
 日番谷はそのまま動かない。


(かっこ悪いとこ見られたって、思ってるんだろうな)


 そんなバツの悪そうな背中を、しなくていいのいに。
 少しむっとする。
 そんなことくらいじゃ嫌いにならないのに。
 雛森は乱暴に歩いて、日番谷の前に回りこんだ。
 逸らされた視線にまた、むっとする。
 無理矢理に日番谷の顔を上げさせた。
 日番谷の目が見開かれた。
 これは何事かと焦って、頭をフル回転させているときだ。
 微笑ましくて思わずふわっと笑ってしまう。
 胸が、温かくなる。
 日番谷の頬についた泥水を、迷うことなく指先で拭った。
 しかし拭ったはいいものの、逆に泥は薄く延び、頬に染み入ってしまった。
「………」
 しまったと思う前に、雛森は思わず笑ってしまう。
「てめ…」
 日番谷は短く唸ると、雛森の腕を思いきり引っ張った。
「わ」
 雛森の身体が大きく前に傾ぐ。それを止めようと無意識に右足を一歩前に出した。
 ぱしゃん。
 水溜りが大きな音を立てた。
「………」
「ざまあみろ」
 泥水が跳ねた雛森の顔を見て、得意げな日番谷。


 これは子どもに戻っているときの顔、とまた雛森の知識が蓄積した。


 日番谷は負けず嫌いだ。
 だけどそれは、雛森だって負けていない。
 わざと水溜りを踏んで、ばしゃん、と泥水を跳ね上げる。
 舞いあがった飛沫は日番谷の髪と顔を綺麗に濡らして。
 喧嘩売ってんのか、と静かに日番谷が訊いて来た。
 その伺うような声音には、どんな心が隠されているんだろう?


 いっぱい見せてほしい。
 隅々まで見せて欲しい。
 余すことなく、どこまでも。


「好きだよ」


 脈絡のない告白に日番谷はハトが豆鉄砲を食らったような顔をした。
 太陽に照らされた泥水がきらりきらりと光り、日番谷の顔や髪を縁取った。
 輝く日番谷の間抜けな顔に、雛森は目一杯の笑顔を向けた。















かっこいいとか、悪いとか、

そういうのはどうでもよくてね?

君が君で居てくれるだけで、














幸せでいられるんだよ。


















04/01/23

相互リンクさせていただいている『空色郵便』仁志円寿さんのサイトより
一萬打記念のフリーSSを頂いてきました。
もう、なんていうか…日番谷くんが可愛いすぎて×2、
思わず駆け寄ってハグしたくなりました(爆)
ああ、できるなら(私が)雛ちゃんになりたい…。

円寿さん、ホントに有難うございました!

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