White Christmas


12月に入り、世間では街の飾りつけやイルミネーションが一斉にクリスマス一色に変わって、 クリスマスの気分を盛り上げていた。

しかも戦後初めてのクリスマスと言うこともあって、お祭り気分が増している。
あちらこちらからは陽気な音楽が流れ、例年にも増して煌びやかなライトアップや飾り付けがいたるところで行われている。
そして、プレゼントを選ぶ家族連れや、カップルたちで街は溢れとても賑やかだった。
あとは雪が降るのを待つばかり…

そんなクリスマスイブの夜。

ミリアリアはプレゼントを抱える家族連れやカップルで賑わう街を一人歩いていた。
華やかな衣装に身を包んでいるわけでもなく…どちらかと言えば周りの人よりも地味な服装に身を包み、 足早に通りを進んでいる。
唯一、彼女の持つポインセチアの花束だけがクリスマスムードを漂わせている。
それなのに、多くの人が彼女が通ったあと、なぜかつい振り返ってしまう。
それは、彼女の幸せそうな雰囲気のせいだろうか…?
それとも、彼女が幸せそうなカップルや家族連れに思わず微笑を漏らしているからだろう…か?

きっと多分、ようやく戦争が終わって、こうやって普通にクリスマス送れることが、ミリアリアにとっては幸せなことだった。
その気持ちが、ミリアリアを包んでいるからだろう。

けれど本当のところ、世の中はクリスマス一色とは言っても、彼女は恋人であるディアッカと逢う予定にはなっていなかった。
ミリアリアは近くの教会で行われるクリスマスミサに出席をする事に決めていたから…。

そうは言っても…こうして、賑やかな街中を一人で歩いていると、仲良く腕を組んだりして歩いているカップルがどうしても目に入ってくる。
そして、もうずいぶん長い間逢っていない彼のことを思い出してしまう。

「やっぱり…逢いたかった…かな…」

思わずミリアリアの口からぽろりと音にならない本音がもれる。
逢えない訳ではなかった。
でも、「予定があるから逢えない」と言ったのは自分だったから…
あの時の会話を思い出すと…思わず苦笑が漏れる。
それなのに「逢いたい」と思うなんて…

「我侭…よね…私」


クリスマスまであと一週間といった頃、珍しくディアッカの方から予定を聞いてきた。
いつもは、プラントで忙しいディアッカ、予定を合わせるのはいつもミリアリアの方。
予定を聞くのはいつもミリアリアだったのに…?

「ミリィ、クリスマスイブの予定ある?」
「……ある…かな…」

数秒電話の向こうで、ディアッカの絶句した表情があって逆にミリアリアの方が驚く。
そんなに驚くようなことだろうか…?

「え〜!!何で!!マジ?」
「…そんな、驚くこと?」
「当たり前デショ?…だってクリスマスだぜぇ〜?」
「そりゃ、そうだけど…ディアッカ忙しくて逢えないって、この前そう言ってたじゃない?」
「…けど……だからってもう予定入れてるなんて…何でぇ?」
「だって、クリスマスだもの…」

なんだか珍しく必死の様子のディアッカに、ミリアリアは不思議な気がする。
だって、逢えないのはいつもの事なのに…

「どうしたの?なにかあるの?」
「あー…う…ん……パーティ…」
「は?」
「だから…プラントと地球の政府共催でのクリスマスパーティがあるんだけどさ」

ディアッカにそう言われて、確かキラもそんなことを言っていた事をミリアリアは思い出す。
カガリやマリューさん達と一緒に自分もMSパイロットとして、出なきゃいけないかも…と話していたっけ?
プラント、地球双方から政府の主要人物も招待されているという話だったはず…
そういえば、同じMSパイロットでプラントの有力者の息子であるディアッカも出席するんだろうなぁ…とは思っていたけれど…
自分には全く関係が無い話だったから…すっかり忘れていた。

「そんなこと…キラも言ってたわ」
「そうそう、キラも出るんだっけ?…でさぁ…ミリィも出ねぇ?」
「………はぁ??なんで??」

数秒間言われたことの意味が解らず思わず声が出る。

「あのね……ミリィも一応AAの一員だったわけだし…?」
「私は行かないから。というか…行けないわ、招待もされていない、そんな大層な席」
「だから、今、俺が招待してるって」
「それに、だいたい…予定があるって言ってるでしょう」

即座に断りの言葉をつむぐミリアリアにさすがのディアッカも二の句が告げなくなる。

「クリスマスに逢えるんだぜ?なんで予定が入れてるわけ?ミリィは…?」
「……いいじゃない……」
「予定変更できねーの?」
「変更は絶対できないし…もし出来たとしても、パーティには出ない」

なぜかきっぱりはっきりと言い切るミリアリア。
それがどうしても納得できなくて最後の最後まで「一緒に行こう〜」と言い続けていたけれど、 最後に言ったミリアリアの一言にしぶしぶ諦める。
それは。

「……クリスマスミサに出るのよ…」


「今頃きっとディアッカはパーティの真っ最中ね」

ささやかに、暖かい雰囲気でミサは執り行われ、その余韻に浸りながら、ミリアリアは 他の多くの人々と共に教会を出る。
今にも雪が降り出しそうな雲に覆われた冬空を見上げて…逢えない人を思い出す。

そのどんよりとした空とは対照的にクリスマスの今日は、一晩中開かれているという教会の光に心が和まされる。
そうして、ミリアリアはミサの前からずっと持っていた花束を手にある場所へ向かう。

綺麗に整備されたそこは…

この教会に併設されている墓所
此処にはミリアリアの亡くなった恋人――トールが眠っている。

さすがにこの時間になると誰もいないその場所で、ミリアリアは迷うことなく彼の墓標の前に立つと、 持ってきたそのポインセチアの花束を静かに置く。
そして、服が汚れるのにも構わずに跪いて…その墓標に刻まれた名前にそっと手を触れる。

「トール…メリィ・クリスマス…」

聞こえるか聞こえないか位の本当に小さな声でミリアリアは呟き、 瞳を閉じるとその冷たい表面に静かに額をつける。

しばらくそのままの状態でいたあと…ミリアリアは静かに立ち上がり、振り返えったところで動けなくなる。

「デ…ディアッカ?……うそ…?」
「メリィ・クリスマス、ミリィ」

全く気配も感じさせずに、パーティスタイルに身を包んだディアッカが悪戯を企んでいる子供のような表情をして、ミリアリアの背後に立っていた。
いったいいつからいたのか…?
どうしてここにいるのか…?
ミリアリアの頭は混乱して、言葉が出ない。

「……な…んで……」
「逢いたかったから」

何でもない事かの様に言うけれど、今日は例の大事なパーティに出席していなきゃいけないはずで…
地球に降りてくるなんて、無理なはずなのに…

「でも…だって…パーティは…まだ…」
「あぁ、多分真っ最中だろ?」
「じゃあ…どうして…?」
「一応、出席して義理は果たしたし…今日は絶対ミリィに逢いたかったからな。ミリィは逢いたくなかった?」

そう言いながらディアッカは、ミリアリアの前まで歩み寄ってくると、彼女の蒼の瞳を覗き込み、 両手で彼女の頬を優しく包み込む。
その手のあまりの冷たさにミリアリアは驚く。

「いつから…?」
「ミリィが墓地に向かった頃から…かな?」
「そんな…前から…?」
「だって、ミリィとその大事な相手との会話、邪魔なんてできねーデショ?」
「ディアッカ…」
「そりゃ、少しは…妬けるけど…でもそいつを大事に想うミリィごと、俺は愛してるから」

額をミリアリアに合わせ、囁くようにそう言うディアッカ。
その言葉を聞いたとたん、ミリアリアはディアッカの背に手を廻してその冷たくなった体をぎゅっと抱きしめる。
トールのことは絶対忘れられない…でも…でも今はディアッカに傍にいて欲しい。
いつでも、どんな時でもありのままの自分を想っていてくれている。
この人が、とても愛おしい。

「ミ、ミリィ?」
「私も……逢いたかった……逢いに来てくれて…本当に嬉しい」

そうして、ディアッカの冷たくなっている唇に触れるか触れないかの優しいキスをする。
ミリアリアからのそのキスに驚きの表情を浮かべながらも、その紫の瞳はとても嬉しそうに輝く。
そして今度はディアッカの方からミリアリアの頬を指で優しく愛撫すると、唇を寄せて長く深いキスをする。

「プレゼントは…何もねーけど……かわりに…」

そう言ってディアッカはミリアリアを振り返らせてその肩に手を置くと、トールの墓標の前に二人で立つ。

「心配だろうけど…ちゃんとミリィは守るから…許してくれ…な、トール・ケーニヒ」
「…ディアッカ…?」
「ちゃんと、許可もらわないと、な?ミリィを一番に守ってるのは彼だと、思うからな」
「ありがとう…。……トール…私…今…微笑えてるでしょう?今、本当に幸せ…だから…ね。どこかで見ていてね」


そんな2人を祝福するかのように空からふわふわと真っ白な粉雪が舞い落ちる。
それはまるで天国の彼からの贈り物のようだった。

<Fin>

         


以前うちのサイトからリンクさせていただいていた『ことのは』ゆふこさまのサイトからいただいてきたクリスマスSSです。
クリスマスは終わってしまったのですが、あまりに素敵なのでサイトアップしてしまいました(><)
ゆふこさま、ありがとうございました!