「ふわぁ、いい気持ちっ!」
とある春の日の、昼休み。
教官の長話と今にも悲鳴をあげそうだったお腹という二重のピンチを無事に乗り越えた雛森は、外に出るなり開口一番にそう言った。
ポカポカと注ぐ程よい陽射し。
そよそよと流れる心地よい風。
春の午後というのは、どうしてこう気持ちがいいのだろうか。
「こんなんじゃ、眠くなっちゃ……ふわぁ」
言ってるそばからあくびが一つ。
こういうの、なんていうんだっけ、と雛森は半ば働かなくなってきた頭で考えた。
そうだ、確か今日、教官が言っていたっけ。
えーと……現世のどこかの国の何だかすごく古い言葉……
「………………」
「……………………」
「――雛森」
突然の自分を呼ぶ声に。雛森は顔を上げる。
……いや、上げようと、した。
「――おい、雛森」
けれども一度夢に沈もうとした意識は中々元には戻らない。
呼ぶ声に反応したおかげで少しは目が覚めたが、そんな状態ではまともに目も開けられず、
「ふわい、なぁに?」
かろうじて呼んだ相手――日番谷に、返事らしきものを返した。
「……ったく。ぶっ倒れてるのかと思って来てみれば」
寝てるだけじゃねえかよ、と少し怒ったような声が雛森の耳に届く。
けれど、きっと顔は怒ってないと思う。まあ呆れてるかもしれないが。
ぶっきらぼうなのは、いつものことだから。
けれど、寝てるというのは心外だ。その証拠に、
「ねてないもー」
ほら、少なくとも会話してるのだから、半分くらいは起きているはずなのだ。
何だか、呂律が回ってない気がするが、きっと気のせいだろう。
「いや絶対に寝てるだろ、お前」
だから、寝てないってば。そう雛森は反論しようとしたが、そのほとんどが声にならず、
「むー」
出たのは何故かそんな言葉。案の定日番谷は、
「むーって何だ、むーって。全く」
呆れたようにそう返す。今度はかすかに笑い声が聞こえたような気がした。
――そして少しの間があり。
その間に雛森の意識はどんどん夢の中に引きずりこまれていった。
「……雛森?」
日番谷の声も、耳には届くがもう返事をする元気もない。
「…………ったく。しょうがねえな」
ため息と同時に日番谷が呟いた瞬間、雛森の体が、ふわり、と浮き上がった。
「ん〜?なに〜?」
ふいの衝撃に雛森の意識は、少しだけ現実に戻る。
「いいからお前はそのまま寝てろ」
「おきてるよー」
「…………」
「でもねむいのー」
「……ああ、もうどっちでもいい。とにかくじっとしてろ」
「ふわぁい」
ふわふわ。ふわり。何だかいい気持ち。
ああもう駄目だ。本格的に眠くなってきた。
「……やれやれ。まさしく春眠暁を覚えず、って感じだな」
ああ、そうだ。思い出した。
春眠暁を覚えず、だ。
さすが日番谷君、難しい言葉知ってる。
そしてそのまま、雛森の意識は、全て夢の中へと沈んだ。
林原そんぐしりーず(いつからシリーズになったんだ)第二段。まあ今回はどうみてもタイトルだけ借りただけです。
ていうかどこに『おはよう』があるんでしょうか。はっきりいって『おやすみ』の方しかない気がします。
だってほとんど寝てますから。いや起きてると言い張ってるけどね、雛ちゃんは(笑)。
……ちなみに一体どうやって日番谷君は雛ちゃんを持ち上げたのかは、内緒……というか考えてません(爆)。
いやでもきっと日番谷君のことですから、火事場のバカ力でもあるんですよ(意味不明)。