Little soldier



『1番、セカンド、日番谷』

ウグイス嬢の声がグラウンドに響く。
この試合、いやこの大会、何度も聞いたその名前。だがこの時ばかりはできればあまり聞きたくはなかったかもしれない。
コールを受け、バッターボックスへと向かう冬獅郎をベンチから見つめながら、桃はそう思った。

すでに9回裏、ツーアウト。ランナーは二・三塁。
一打逆転サヨナラのチャンスだが、アウトになればそこで試合終了。
点差は一点。たかが一点、されど一点。
勝って栄光を掴むか、否か。
見た目以上にその差が大きいのは、その場の誰しもが知るところだった。

だから最後の打者ともなれば、その肩にかかる重圧は相当なものだろう。
ましてや全国大会の決勝ともなれば、どれほどのものになるのかもはや計り知れない。

(なのに何で、そんな場面が日番谷君に回ってくるかな……)
いくら天才と呼ばれていても、彼はまだ一年生なのに。
緊張していないか。いつもの調子で打てるのか。
もしも打てなかったら。打ってもアウトだったら。勝てなかったら。
幼馴染としても、マネージャーとしても、桃は気が気ではなかった。

もはや救いは神頼みか。そう思いながら桃はもう一度、冬獅郎の様子を見る。
当然ながら、バッターボックスに入ろうとする冬獅郎は桃に対して背を向けているから表情は見えない。
無論冬獅郎のことだ、たとえ緊張していたとてそれを見せるわけはないと分かっている。
だが心なしか、その背中は少し震えているように見えた。

(頑張って……)

桃は知っていた。中学時代に全国優勝し、高校入学当時から騒がれ、野球部に入部テスト時にレギュラー入り決定し、天才と呼ばれている冬獅郎が、実は陰で人一番努力していたことを。
体格とパワーにはあまり恵まれていない分、打撃と守備とスピードだけは誰にも負けないと、人には見えないところで練習していたことも。
桃は冬獅郎をいつも見ていた。最初はこっそり見ていたのだが、気づかれてしまってからは堂々と、それからは時々差し入れ知れもした。
そして、自らを高めるため努力を惜しまず、だがそれを人には見せない冬獅郎を、いつしか桃は支えたいと思うようになった。
だから、桃は心の中で叫んだ。

(打って、日番谷君!)

その瞬間。
快音が鳴り響いた――。


初パラレル。高校野球編。短いですね(苦笑)。SSというよりSSS…日記に載せた方がよかったかな?
日番谷君は一年生。正二塁手、一番バッター。イメージはイチローで。外野じゃないのはちっこいからあんまり肩強くないってことで。
雛ちゃんは三年生で、マネージャーさんです。日番谷君とは幼馴染。

ちなみに同じ野球部には恋次とかイヅルとかいたりするかも……(笑)。