前代未聞の成績をもって、日番谷冬獅郎が真央霊術院に入学して数日。
当然のごとく日番谷の言動は常に注目を浴びていた。
だから彼のことはイヤでも耳に入ってくる。
いわく、鬼道の基礎訓練で軽く基準をクリアしたとか。いわく、とある講義で担当教官を質問攻めにしたとか。
その大半は女子生徒の噂話。
成績もさることながら、それでいてまったく鼻にかけない態度、人目を引く風貌のため、日番谷はやたらと人気があった。
だからそんな噂を耳にするたびに、雛森桃の心は、少し寂しさを感じてしまうのだった。
(今のシロちゃんは、あたしの知ってるシロちゃんじゃないんだ)
まるで、日番谷が遠くに行ってしまったようで。少し、悲しかった。
そして同時に他の人のほうが日番谷のことを知っていると気がして、少し悔しかった。
そんなある日。
数人の女生徒が、雛森のところへ訪ねてきた。
見れば、まだ目新しい制服。おそらくは一年生 日番谷と同じ学年。
「あの、雛森先輩。ちょっと聞きたいことがあるんですけど」
少女たちの集団は、雛森が出てくると何事か相談し始め、やがてその中の一人が、意を決したようにそう、言った。
(ああ、またか)
聞きたいことの想像はついているんだけど。そう、雛森は思ったが顔には出さず、できるだけ平静を装って「何?」と促す。すると。
「……えっと、あの日番谷君のことなんですけど」
果たして、返ってきた答えは、予想していたとおり。
これで何人目だろうか。雛森のところへ訪ねてきた人物は。
『雛森桃は、天才児の幼馴染』。どこからか伝わったのか定かではないが、それはすでに学院中が知っている事実だった。
やってきた人物たちがする質問の内容は皆、似たり寄ったり。
日番谷の趣味は何、とか。好きな食べ物嫌いな食べ物、そして好きな子のタイプ。そんなのばかり。
最初は同じクラスの子だった。次は同級生。そして段々、学年が下がっていって。
今日はついに一年生だ。
(……はあ。どうしてどうもこうもみんな、あたしのところにくるかな)
いくら自分が幼馴染だって、知らないことは知らないのに。
大体にして、5年近くまともに会っていないのだ、そもそも趣味だって変わってるに決まってる。
そんな自分に何を聞くというのだ。
むしろ日番谷と同じ学年の彼女たちの方が知っているのではないか、とも思ってしまう。
だがしかし、そんな雛森の想いを知ってか知らずか、少女たちはこう、問いかける。
「あの、日番谷君って小さいときってどんなんだったんですか?!」
その質問は、今までなかったもの。
それを聞いた時、ドキリ、と雛森の胸が高鳴った。
日番谷くんの シロちゃんの、小さいころ?
(…………そう、か。そう、なんだ)
確かに今の日番谷は自分の知っていた『シロちゃん』ではない。
当然だろう、人は変わる。ましてや5年もたったのなら。
だが、それでも。あの頃の二人が消えるわけではない。
確かに雛森の中に残っている。それはきっと、日番谷も同じ。
だから。
「先輩? 雛森先輩?」
いくらたっても質問に答えない雛森に、少女たちはさすがにあわてだし、心配そうに声をかける。
「……え。あ」
「どうしたんですか? 急に気分でも」
「あ、うん。別に、大丈夫。それで? シロ…じゃない、日番谷君のことだったよね」
「ハ、ハイ」
雛森はどんなことを教えてくれるのだろう、そんな風に期待している様子がよく分かる、少女たちの表情。
けれど返ってきたのは、予想もつかない、言葉。
「…………あんまり記憶にないんだよね」
「え?」
想いも寄らない、その言葉。唖然とする少女たちを前に、雛森はさらに続ける。
「だから、あまり覚えてないんだ、ごめんね」
「で、でも」
先輩は、日番谷君と幼馴染なんですよね。そう少女たちは口々に言い出す。
雛森はそんな後輩たちを一瞥し、ニッコリ微笑ってこう、言った、
「うん、でもね。考えてもみて。あたしたち、年がかなり離れているんだよ? だからあんまり一緒に遊んだことないんだ」
「………………」
少女たちは驚きの顔を隠さないまま、互いに顔を見合わせ頷きあう。そして。
「あ……じゃ、じゃあ私たちはこれで」
「ど、どうもありがとうございました」
そう、次々に言って去っていった。
後に残されたのは、雛森一人。
その顔にはかすかな笑み。
後輩たちに言ったことは嘘ではない。
確かに日番谷と雛森の年はかなり離れていたし、ほとんど一緒に遊ぶことなどなかった。
(でも、一緒にご飯は食べたことあるんだよね。それに、お買い物も行ったし)
他にもある。エピソードなど、ことかかない。
だが、しかし。
( 教えてあげない)
それは自分だけの 自分と、彼だけの秘密。
だから、誰にも教えない。
日番谷くんと雛ちゃんは、年が離れてたからきっと一緒に遊んだことってあんまりないんだろうな、と。
でも食事とか、買い物とか、さらには一緒にお昼寝とか!やってくれてたらいいなあ…なんて(笑)
無論抱きマクラで(超萌)。膝枕じゃイメージ違うし。