タタタッ。タタタッ。
軽やかな足音が規則正しく鳴り響く。
ここは真央霊術院の、中央棟の2階、の廊下。
雛森桃は走っていた。
立ち話をしているものを軽やかにかわし、そしてあるいはよけさせて。
(急がなくちゃ)
走りながら、そんなことを考える。
もうすぐ式が終わってしまう。
それまでに、たどりつかなければならないのに。
(ああっもう、何でこんなに長いの、この廊下!)
普段はさほど長くもない距離でも、急いでいるときに限って長く感じる。
人の距離感とはそういうものだ。だが今の桃にはそれを理解する余裕がなかった。
心はただ、一つのことを考えていたから。それだけで頭がいっぱいだったから。
やがて桃は昇降口へとつながる階段へとたどりついた。
そこで一息つき、ふと窓の外へ視線をやると。
(……キレイ……)
そこにあったのは、満開の桜。
そのあまりの美しさに、桃はしばし見とれてしまった。
火照った体が少しずつ温度を失っていく。
ザッ……!
ふと、突風が吹く。いくつもの花びらがふわり、と風に舞い、そしてさらり、と舞い落ちる。
落ちた先に見えるものは。
(あ〜、終わっちゃった…!)
真新しい制服に身を包んだ、少年少女たちの、集団。
この春入学した、新入生たち。
それぞれに期待と不安を抱えた表情で、各々の担任に先導されて歩いている姿に、桃は思わず目を細めた。
(ふふふ。なつかしいな、あたしもあんなだったもんね)
そんなことを思い、しばらくながめていた桃の視線が、ふとある一点で、止まる。
そこにいたのは、銀の髪と碧の瞳をもつ、少年。
真央霊術院始まって以来の、最高成績と類まれなき霊力をもって入学してきた者。
その名を、日番谷冬獅郎という。
新入生の中でもひときわ小柄な冬獅郎は、体格に反して絶大なる存在感を持ってその場にいた。
おそらくは5年、いや最高学年である6年と並んでもいささか負けることもないほどに。
きっと誰しもが、彼を見れば驚嘆せずにはいられないだろう。
しかし、彼の幼馴染である桃は、まるで別の感想を持った。
(あは。やっぱちょっと大きかったかな)
桃が見ていたのは、冬獅郎の服。
良く言えば少し大きめ、平たく言えばブカブカの制服姿。
その姿を見て、桃はクスリと笑みを漏らす。
すると視線を感じたのであろうか、冬獅郎がふと立ち止まり、顔を上げた。
二人の視線が、からまる。それはほんの、一瞬。
すぐに冬獅郎は視線をはずし、再び列に混じって歩きだした。
その顔にかすかに笑みを浮かべて。
(失敗したなあ。会って言いたかったのに)
おめでとうと、頑張れと。
月並みだけれど、気持ちが一番伝わる言葉。
だからこそ、会って伝えたかった。
(……でも、もういいや)
きっと、思いは伝わったから。
あの笑みはその証。だから、これでいい。
入学おめでとう、頑張ってね、シロちゃん。
日番谷君の入学式後の話、です。いまいちわかりづらいですが(汗)。
しかしおめでとうを言うためにあんなにあせる必要がどこにあるんでしょうか(自分が書いといて言うな)
まあ行動がよくわからないのがうちの雛ちゃんなので(ヲイ)。
それだけ日番谷君のことを大事に思ってるってことにしといてくださいな。